児山 隆(映画監督)
大学時代に自主制作映画を撮りはじめ、卒業後、上京。
2003年、(株)ピラミッドフィルムに制作部として参加。
2005年、映像探偵社に助監督として参加する。
現在次回作を執筆中。
 純吉(以下、純):今日は改めて、宜しくお願いします。
 児山監督(以下、児):宜しくお願いします。

 純:監督、先ずは映画「FLYING BIRD」完成おめでとうございます!
 児:ありがとうございます。



 純:この映画を撮ろうと思ったキッカケなんですが。
 児:流れです(笑)
 純:あははは
 児:映画の専門学校時代に自分の脚本が通らなくて、
   映画を撮りたいという思いはあって。

 純:この物語にしようという走り出しはあったんですよね?
   イメージというか、すごく核になる物みたいな。

 児:元々は短編の作品で、『何になりたかったか?』みたいな事しかなくて、
   主人公の名前すら違ってて。
   オープニングのナレーションにもあるんだけれど、
   いろんなモノに憧れていたりとかいろんなものになりたいとか成功とか
   活躍してる人とかを下から眺めてて自分は・・・っていうのは
   リアルに結構あって、そういう気持ちを・・・ん〜、劣等感ですかね(笑)
   何でもそこそこで、飛び抜けてなくて、常に劣等感(笑)

 純:ははは!そういうところ僕好きですね〜。
   監督って作品に想いを託すみたいな事もあるんでしょうか?

 児:託すというか『そういうヤツもいるでしょ?』みたいな、
   そうなりたいヤツもいるけどなれないヤツの方が多くて、
   本当になりたかったら普通は努力するじゃないですか?
   でも努力しないヤツも多くて、なりたいなぁくらいで。
   大体そんなもんだと思うんですよね、人ってみんな。
   中途半端な感じで生きてて、でもそういう人達の中にもきっとドラマはあって、
   それがなんとなく面白いかなって(笑)

 純:この話をはじめて台本で読ませていただいた時に、
   自分の頭の中に描くものがあったんですけれど
   結末に疑問が残っていて。
   でもそれが形になったときに『ああ、なるほどな』って、
   想像していた以上の効果があったんですけれど、
   それは確信的なモノだったんですか?

 児:どっちかっていうと主人公2人とも最低なところにいて、
   死ぬことで全ては解決しないし
   『それでも歩いて行くんだ!』って
   よくあるじゃないですか。でもそれを選べない人もいて、
   誰にでも同じ結末というのは待っていないですよね。
   それをどう思うか、どう感じるかだから。

   彼女(ヒロイン)が選んだ事が正しかったのか間違っていたのか
   僕にも分かりませんけれど、そうせざるをえなかったのかなぁと。
   それでも走る事を選ぶ、どっちがどうとかじゃないかなぁ。
   短絡的な結末はそこにはないと思うんですよね。

 純:今回、イジメ、レイプ、暴力、撲殺、過激なシーンが結構たくさんあり、
   それをすごくリアルに描いていますよね。
   痛々しくもすごく惹き付けられてしまった。

 児:足りないかなぁとは思いますけれどね、
   とは言ってもただ過激にすればいいのかっていうのとは違うんだけれど。

   もっと違う別の伝え方があったのかもなぁって、それは今でもありますね。
   後悔してはいないですけれど(笑)

 純:作品の中にはたくさんの魅力的なキャラクターが登場しますが、
   キャラクターはどうやって生まれていくんですかね?
 児:その人に内在する因子というか、出逢った人とか、
   そういった人の側面は生かしてますね。

 純:キャスティングには時間を掛けられたそうですけれど? 
 児:そうですね、掛かりましたね。

 純:今回はキャラクターが各々に本当に個性的で、演出の方向性というか、
   やり方ってあったんですか?
 児:役になるっていうのと役に近付けるというのがあって
   僕は近づけてもらう感じでいつもやっているんだけれど、
   それが出来ない人には出来なくて出来る人は出来るし。
   そこでほぼ決まっちゃうから。見てくれとか声、芝居も勿論その人の中に
   役の因子があるのかどうかという事が重要ですね。

 純:それはオーディションの少ない時間の中で掴むんですか?
 児:だいたい5分くらい話せば分かりますよね。
   それとバランスを考えて、違和感の無いように。
   あってもいいんだけれど、それが作品の上で不協和音になるのが嫌だから。
   主役の2人に関してはもっと「役」という感じで見ますけれどね。
 純:ではその中でもお気に入りのキャラクターというのはありますか?
 児:ヤクザの一人である矢沢ですね。個人的に一番愛着がありますね。

 純:では、役者の見極め方とかってありますか?
 児:動機なんてみんな不純でしょう?
   それなら何でやりたいかは問題じゃなくて、何でやってるかが大事ですね。
   それをきちんと言えないとねぇ。

 純:演出に関して、役者ごとに別のアプローチをされたとか。
   児山隆流、自分の演出プランに近づけるようにする努力ってあったんですかね?

 児:嘘もつきますわねぇ、思ってない事でも。

 純:嘘ですか?

 児:結果至上主義っていうか、目的を達成するためにはワリと義理人情もなくて、
   自分の思い描いたものに近づける為には嘘もつくし、
   怒ってないのに怒って見せたり、僕の感情はそこにはないですよね。
   求めるモノに近づけるためには・・・うん、マシーンですよね。(笑)

 純:あはははは、確かにマシンでした。

 純:役者に会って脚本が変わるということもあるんですか?
 児:自分の決めたキャスティングって絶対じゃないですか。
   それは責任を持たなくてはいけなくて、無理なものは無理ですよね。
   好きじゃない女の子に好きになれよって言っても好きになってくれないじゃないですか。
   それにちょっと似ていて、じゃあ好きになってもらうように努力するというか、
   髪型を変えたり、その子の好みの服を着たりって自分も歩み寄る感じかなぁ。
   つまりキャスティングした人間が提案したもので、より良いものになるなら変えてもいいかなって。
   僕は自分の想像力に否定的なんですよ、常に自分の着想した事に疑問を持つように心掛けています。
   自分自身そう思っていないとしても、そう応えるようにしてます。
   自問自答というか、ノリなのかな?否定的な事でもそうだと思えば聞き入れるし、
   違うと思えばその人間に対してプレゼンするし。そういった確認はし続けてますね。

純:この映画で大切な事ってなんですか、特にこだわった部分とか?
児:カッコイイものにしようというは心掛けましたね。
純:そういったものは、衣裳にも反映されてますよね。すごくカッコイイ。
児:カッコイイってカッコつける事ではなくて、
  結果カッコイイというふうにしたいんです。
  キメキメよりも設定に合ったバランス、世界観に合うように。
  そのキャラが選びそうなモノ、つまりキャラ自身をあらわす衣裳ですね。
  ワードローブをイメージし、そこを話し合う。
純:イメージをスタイリストさんに伝えて、上がってくるものに対して
  摺り合わせていくという事ですか?
児:そうですね。

純:今回「M's collection」さんのご協力により、すごく高価なアクセサリーを
  使わせてもらっていまして、急遽そのアクセを外すという演出を追加しましたね。
児:まあ、そうですね。ローバジェットだし、代用品を用意は出来ないし。

純:逆にそれもすごく良かったですよね、役者に相談とかしたりもしますか?
児:しますね。例えばこんなシチュエーションだったらどうしますか?と。
  僕は全体を見ているけど、役者は僕よりみんなそれぞれ役の事は
  よく考えているはずだから、自分より考えてなかったらムカツクんですよ。
  もっと考えろよって。だから僕の役目は、調整する。
  ある程度の外郭、最低限のアウトラインは分かってるし、
  それを動かすのは役者であってそれは自分じゃ出来なくて、
  それについては僕は自分の思い通りにはならないと思っているんです。
  けど、方向性はあってそこに向ける作業をするために口八丁、手八丁で
  誘導するという感じで。
  僕の想いはダシですよね。その上に役者の素材、持ち物で味付けしていく。

純:脚本の台詞に対してはどうですか?かなり印象的なモノも少なくありませんが(笑)
児:そんなの言っちゃうんだぁみたいな?(笑)
  本当はもっと膨大にあるんですよね、そんな言葉をそぎ落としていく。
  言わなくていいことはどんどん削っていきセレクトしていく。
  これ言わなきゃ分からないよなっていうギリギリなところでせめぎ合ってますね。

 児:役者の引き出しって嫌いなんですよ。逃げるじゃないですか、自分の引き出しに。
   癪に障るんですよね。何してんの?みたいな。
   なんとなく引き出しでやってるなっていうのが目ざとく分かる。
   だから何人かには引き出しでやってくれるなといいましたね。
   『新しい引き出しを増やしましょ』って言う話なんですけど。
   小さくまとまってるみたいな。

 純:なるほど、その場で溢れ出す感情ってヤツですね。

 児:感情にしても、こぼれるものが欲しいんですよね。
   引き出しでやってるとこぼれないんですよ。
   こぼしたい、こぼれたのを拾って行きたい、まずこぼれさせたい。

   それをどう、いかに拾えるか、そういったアプローチもしていくし。
   演出のインパクトとか方向性が小さくまとまっていると、こぼれないだろうし、
   そうする事が演出だと思ってる。勿論、要らないものは拾わないけれど(笑)
   引き出しに逃げる事は許せない。まあそれも感覚でしかないんですけれどね。

 純:いっぱいあるとは思うんですが、悩んだところってありますか?
 児:自分に大それたものが無いと思っているから、脚本、演出にしてもそうで、
   全ての事に劣等感を持っていて、自分の想像力にはリミット限界があって、
   その限界に対して常にクエスチョンマークが発さないといけないところが
   辛かったですね、自己否定から始まって、自分がいいと思ったものに対して、
   自分が最初に否定する。
   答えが出ない限り悩み続ける、現場にまでそれを持っていくんですよ。
   8割いいとおもっても、2割違うという時があってそっちが勝つこともある。
   折り合い、100%これっていうのはない。
   現場で迷いがあるのはみんなを不安にさせるから、
   それがばれないようにばれないようにして臨機応変に直感で変えていく。
   迷いを迷いとしないというか、正解かどうかなんて、分かんないですからね。
   OKのラインって2割迷っている自分がいて、それでも言い切らなきゃいけない。
   迷いの中の迷いの決断って言うんですかね。

 純:でも今回、数十秒くらい現場で迷ってるシーンもありましたよね。
 後、役者として監督のオーバーアクションには助かりましたね。

 児:自分のためにやってるんですよ。
   奮い立たせる、ビンビンなつもりでいるみたいなね(笑)
   答はいくつかあるけれど、正解は一つしかないんですよね。
   気持ちの切り替えしていかないと。

 純:それは役者としてもありがたいです。
   監督の気持ちいいOKがないと、良いのか悪いのか分からなくて。
   迷いを持って次のシーンに行きたくはないですからね。

 純:では役者・沢村純吉を使った理由を教えて下さい。
 児:沢村さんの魅力って、本人の思ってないところにあるんですよ。
   例えば・・・ズレてるところ!?

 純:えっ・・・!?

 児:あははは。いい意味で自分でコントロール出来ればいいかなって。
   今回の演出は、縛りをつけてすごく窮屈にしてやろうって思ってたんですよ。
   沢村さんがいい時って、実は僕自身も驚いていて沢村さんには演出もしたけれど、
   一緒に戦ったっていう印象が強くて、もっと高みに行こうよって。
   そこじゃないよ、もっと高いところまで行こうよって、
   そう思いながらやってましたね。僕らって同じ位置からのスタートですから、
   ある段階で同じ高みにいれたらなあって。
   だからもっと違う事をして戦っていかなきゃいけないですよね。
   一言で言うと、言いようも無い可能性、未完の大器です(笑)

 純:ははは、ありがとうございます。

 純:では将来のビジョンは?
 児:映画を撮り続けたい。職業映画監督に、アーティストというかそういう
   しゃっちょこばった感じじゃなくて、 常に作品を撮り続けていきたいですね。
   とにかく量産していくというかやりたいことを無理やりにでも見い出していく
   というか・・・それで究極は観た人に何かが届くかなあという。
   分かる人だけ分かるっていうのがあるじゃないですか?あれは嫌なんですよ。
   分からないかもしれないけど分かって欲しい、
   そういうスタンスで撮り続けて行きたいですね。

 純:それはどのような作品なんですか?
 児:撮りたい作品もいっぱいあるんですけれど、ただ面白い、
   ただカッコイイというラインを狙っていきたいですね。
   そうしようと思ってもそうならないじゃないですか?
   いろんな要素が複合的に絡まって来て、
   その結果としてカッコイイという作品ですかね。

 純:秀作には多い傾向ですよね。じゃあ頭の中にはいろんな作品があるんですね。
 児:そうですね、5、6本はありますね。
   いろんな人に観てもらって、そうする動きをしていきたいと思いますね。
   聞かれればいっぱいあるんだけれど、伝えたい事って。
   でもシンプルじゃないから、あるにはあるけど、それが全てじゃないし。
   まあ答えになってないですけど(笑)

 純:では、最後に作品に込めたメッセージを!
 児:メッセージですか?・・・みんな頑張れってことですね。
   頑張ったらイイコトあるよっていう、まあ自分も含めてですけど(笑)

 純:ははは、面白かったです、今日はありがとうございました。
 児:ありがとうございました。


主演作3連続公開記念イベント、第一弾として児山隆監督に来ていただきました。今回のインタビューは本人の意向もあって、ゆる〜くやらせていただきました。もう児山監督とは3作品ご一緒させてもらってまして、それ以外でも仲良くさせてもらっています。それだけに、今更聞く話なんてもうないくらいだったので、何も考えずにノープランで行きました(笑)スチールにしても、僕ららしくいつもの感じでいきましょうよ!って。僕ららしくていいんじゃないかと思いましたがどうだったでしょうか?

それにしても面白い方です。毎回、酒の席は爆笑の嵐です。よく見てるなあって、毎度突っ込みどころに笑う反面感心してしまいます。そんな児山監督の映画に掛ける情熱を感じ取れた1日でしたね。実は『一緒に上がって行こうよ』って、そんな言葉を掛けてもらった時、ジ〜ンときちゃいました。そういう関係であり続けられるように、僕も頑張り続けなきゃなって思いました。勿論、また監督とは一緒にやりたいですね。この天才の作る世界、次回作が楽しみでなりません。

続いて第2弾は、9月から渋谷UP−LINKで公開の決定した
「フローズンライフ」のshin監督にご来店いただきます。乞うご期待下さい!!

<今回のカフェ>
Cache Cache Cafe (154-0001 世田谷区池尻2−8−7)
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